全国内水面漁業協同組合連合会
奥日光湯の湖・湯川


水温上昇期の河川におけるコイヘルペスウィルス


埼玉県農総研 水産研究所 田中深貴男

 全国のコイ生産量の半分以上を占める霞ヶ浦で、10月上旬からコイの大量死が起こり、コイヘルペスウィルス病(KHV病)の発生が日本で初めて確認されて以来、コイを取り巻く養殖業や河川漁業、レジャーに大きな影響が出ています。

 厳冬期に入り、新たなKHV病の発生情報は少なくなっていますが、養殖場や天然水域での水温が上昇してくると、再び各地でKHV病の発生が起きてくることが懸念されています。

KHV病は、コイ特有の疾病であり、人には感染しないが、養殖場や天然水域のコイに大きな影響をもたらすため、持続的養殖生産確保法による特定疾病として、まん延の防止に取り組んでいます。

 KHV病の外見的な症状には特別なものがなく、細菌などの二次的な感染による症状が強く出ていることが多いため、初めて病魚を見たときはKHV病を見落とすことがあるようです。

 KHVは、感染したコイから水を介して別のコイに感染していきますが、温度(水温)によって、ウィルスの増殖や発病には大きな違いがあります。増殖や発病の至適温度は、18℃〜25℃ですが、13℃以下では増殖をほとんどせず、実験的には発病も起こりません。また、30℃では増殖しません。

 しかし、低水温(13℃以下)で発病していない感染したコイの飼育水温を、23℃に上げると発病して死亡することが確かめられており、水温が上昇してくる春以降、KHV病の頻発が予測されています。

 霞ヶ浦・北浦でKHV病の発生が確認されたのは去年の10月下旬ですが、大量死が起こり始めたのは10月初旬頃からで、KHV病との確定診断が出される前に、感染したと思われるコイが全国に出荷されて、現在までに23県で発生が確認されています。各地の天然水域にも放流され、一部の河川等では死亡魚からKHVが確認されています。

今後、去年の秋以降に霞ヶ浦・北浦由来のコイを放流した水域及びKHV病が発生した養殖場や釣り堀などの排水が流入した河川等では、監視を行っていく必要があります。

 不幸にして地先の天然水域でKHV病が発生してしまったときの対応としては、まずまん延の防止を図ることが重要です。

 このため、KHV病が発生した水域のコイの持ち出しをしないことと、この水域にコイの持ち込みをしないことが重要です。

 KHV病発生水域のコイは、体内にウィルスを持ったウィルスの運び屋になる可能性が大きい。また、新たなコイを発生水域に放流すると、放流魚への新たな感染と発病が起こり、KHVがさらに増えてしまうからです。

 では、「一度KHV病が発生した天然水域の再生の方法は?」と問われることがありますが、天然水域で感染の疑いのある野生ゴイを全て取り除くことは不可能で、短期にウィルスを駆逐することは難しいと思われます。

 国際獣疫事務局(OIE)の国際水産動物衛生規約では、2年間対象の病気が発生せず、年間2回のOIEの定める検査マニュアルに沿った検査で病原体が検出されない地域を、無病地域と認定することができるとされています。

 このことも、発生後の目標の一つに上げられると考えられますが、養殖池のように感染魚の処分と施設の消毒が困難な天然水域では、かなり高いハードルです。

 我が国での、KHV病に関する研究はこれから本格的に始まります。防疫や対策に有効な研究や試験を早急に実施され、現場のKHV病対策に活かされることが望まれます。

病漁(東京海洋大学実験魚)

病魚(釣り堀)
病魚(インドネシア)



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